突然ですが、あなたはモバイルオーダー好きですか?
結論から言うと、私はよくある「居酒屋のモバイルオーダー」がどうしても好きになれません。
先日、クライアントと那覇に新しくできた居酒屋に行った時のことです。お店のコンセプトや内装はお洒落で、スタッフの愛想も良く、席についた瞬間までは「良い感じだな」というワクワク感がありました。
しかし、スタッフから「ご注文はこちらのQRコードからお願いします」と言われ、スマホでメニューを開いた瞬間、私のその熱はスーッと一気に冷めてしまったんです。
画面に立ち上がったのは、多くの飲食店で導入されている「某リ〇ルート社のモバイルオーダー」。真っ白な背景に「ビール」「ハイボール」「焼き鳥盛り合わせ」という黒い無機質な文字が、ただ事務的に縦に羅列されているだけの、あまりにも機械的な画面。
全然楽しくない。そして何より、使いづらい。
日頃、NosTech(ノステック)で様々な企業のマーケティング戦略やDX支援に入っている私自身、デジタル推進派です。飲食店のDX化が、人手不足という一次的課題を解決し、データ収集やセットメニューの提案といった二次的メリットをもたらすことは痛いほど理解しています。
実際、マクドナルドやスターバックスの専用アプリは素晴らしい。高解像度の美味しそうな写真が並び、期間限定メニューも目に飛び込んでくる。「注文する人が楽しくなるよう」に、世界観がちゃんと設計されているからです。
でも、某リ〇ルート社のモバイルオーダーには、お店への「愛」が微塵も感じられません。ただのシステムです。
居酒屋は、ファストフードと違って「何度も注文する場所」です。
追加のドリンクやフードをオーダーする度に、スマホのロックを解除し、無機質な文字の羅列からメニューを探す”作業”を強いられる。
作業……。
つまり、お客様に仕事を強いている状態にしてしまっているのです。
視点を変え、工夫次第で、この”作業”を、付加価値を高めるための”体験”に変えることもできます。
この発想ができるのが、真のマーケッターです。
”作業”の話に戻します。
目の前の相手とワイワイ楽しんでいる時間が、スマホと睨めっこするたびにプツリ、プツリと無惨に途切れてしまう感覚。
実は、エンターテインメント施設の代表格であるあのディズニーランドも、最近よくないことをやってしまっているのではないか?と危惧しています。せっかく夢の国にいるのに、待ち時間やマップを確認するためにスマホを見せる。その瞬間に、異空間の世界からスーッと現実に引き戻されてしまう。パークの作り込まれた世界観が、スマホの画面を覗き込む度に無惨に壊されてしまうため、あえて「やってしまっている」という表現をしました。
飲食店のテーブルでも、オーナーが無意識にこの「体験価値の破壊」を起こしてしまっているお店が、今、増えていっています。
効率化という麻薬と引き換えに、確実にお客様のリピート率をドブに捨てているのです。
アナログを捨てない「ハイブリッド戦略」が正解

スマホの画面は小さい。
でも、モバイルオーダーがダメなわけじゃない。実際に、客を楽しませるコンセプトでモバイルオーダーを開発している企業も知っています。
その上で、ではどうすればいいのか? 答えはシンプルです。
せめて、写真付きの紙のメニューなどを置くこと。これがモバイルオーダー活用の最適解です。
つまり、「席には、絶対に写真入りの紙のメニューを置くべき」なのです。(または店内の壁を活用するなど)
これを見事に体現しているのが、「サイゼリヤ」や「びっくりドンキー」です。
びっくりドンキーに行くと、まるでジャングルへ冒険に出たかのような独特の世界観が設計されています。
私が初めて訪れるびっくりドンキーの店舗では、毎回トイレの場所を探す時に迷ってしまいます。笑
でも、びっくりドンキーのブランディングにおいては、この設計が正解なのです!
よりお客様をワクワクさせてくれる体験を提供してくれています。
また、席に着くと、バタン!とどデカいメニューが置かれています。以前は紙のメニューの枠はわざわざ木枠で設計もされていました。あの瞬間、直感的にワクワクする。でかいものに写真がドーンとある方が、料理は絶対に美味しく見えます(UIが作り込まれた焼肉きんぐのタブレットオーダーも同様に楽しく設計されています)。
一般客が「美味しいお店」と判断するのは、そういった店内で味わう五感全てを含めて、最終的にその「お店」の評価を無意識に行っていることを理解することで、誤った取り組み方をするリスクが下げられます。
オーダーを取る手間を省きたいからモバイルオーダーを導入する。それは構いません。
しかし、大手がやっているような「ただの効率化」を、個人店のオーナーや店長がそのまま思考停止で真似するのは、完全な「負け試合」です。
特に、初めてそのお店を訪れた新規のお客さんにとって、「このお店で一番魅力的なメニューは何なのか?」が直感的に分からないお店は、店舗ビジネスにおいて致命傷になります。
注文率を10倍にする「ネーミングの魔法」

もし、「全メニューを豪華な写真付きにする予算はない」「設置する物理的スペースがない」という場合でも、戦う術はあります。
お店を作るときに、メニューの「ネーミング」に異常なまでにこだわることです。
どこの居酒屋に行ってもだいたい唐揚げはあります。そして多くの店は、ただ「唐揚げ」とだけ表記しています。”手書き”のメニューであっても同じです。
しかし、ここに形容詞や固有名詞をブチ込むだけで、お客様の脳内での価値は劇的に跳ね上がり、「頼んでみたいな」と強烈に思わせることができます。1回やってみたら分かりますが、
- × 「唐揚げ」
- ○ 「店主が全国の唐揚げ屋を食べ歩いて行き着いた唐揚げ」
- ○ 「一晩じっくり漬け込んだ〇〇鳥の唐揚げ」
- × 「カレー」
- ○ 「運動会の前日に、母に作ってもらったあの時のカレー」
これをやるだけで、注文率は10倍ぐらい変わります。
単価も上がりやすくなりますが、これの一番の価値は、「リピート率」が高くなることです。「このお店といえば、あの〇〇があるお店だ」という強烈な印象をお客様の脳内に植え付けることができるため、消費者が何か飲食店を探すときに真っ先に思い浮かぶお店になり(=想起率)、結果として、お店の集客・売上が増えるのです。
メニューの名前だけで、思わず喉が鳴るような美味しさの情景を伝え、お店のこだわりをプレゼンテーションする。これだけで、注文率は10倍近く化けます。要するに、「うちのお店にしかないメニューだ」ということを突きつけることが絶対的に大事なのです。
価値を下げて安売りするのではなく、圧倒的な価値を感じてもらうための戦略です。
勝負は「お客様の脳内シェア」を奪い続けられるか

現代社会の大きな課題として、「人はいつ何時でもスマホを見てしまう」という傾向があります。
だからこそ、お店側の経営者が必死に考えなければいけないのは、「入店から退店までの間、いかにお客様の目線(脳内シェア)をこっち側に奪い続けられるか」ということです。
美味しいラーメン屋は、ただ味が良いだけではありません。厨房の奥でマスターがダイナミックに湯切りをしている姿、立ち上る煙、店内に響く活気ある声。そういった「熱量のある雰囲気」を浴びることで、より一層美味しく感じられるのです。
お店の内装、導線の設計、そして血の通ったこだわりのメニュー。すべてはお客様の脳裏に強烈に焼き付き、リピート率に直結します。
便利なシステムを導入するのは大賛成です。しかし、効率化と引き換えに、お客様のワクワク感やお店の世界観を殺してはいけません。別の工夫を必ず設計しなくてはいけません。
リアルな店舗ビジネスの真の価値は、無機質なスマホの画面外にあるのですから。

